チリワインといえば赤ワイン、中でもカベルネ・ソーヴィニヨンを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、チリ固有の品種といえるのはカルメネールです。かつてはメルローと混同され、長らくその存在すら気づかれていませんでした。20世紀末になってようやく「発見」され、チリを代表する品種として世界に認められるようになりました。
本記事では、カルメネールの基礎知識から、チリで花開いた経緯、世界を驚かせた高級ワイン、そしてVinitoおすすめの中小ワイナリーまで詳しく解説します。
カルメネールはどんなブドウ?
もともとはボルドーの品種だった
カルメネールは、フランス・ボルドー地方のメドックを原産地とする赤ワイン用品種です。19世紀にはボルドーで広く栽培されていましたが、1860年代のフィロキセラ(ブドウの樹の根を食い荒らすアブラムシの一種)の大被害によってほぼ絶滅しました。その後ボルドーでは事実上栽培されなくなり、長い間「失われた品種」として歴史の陰に埋もれていました。
ところが、フィロキセラの被害を受ける前に、苗木がチリに持ち込まれていました。そのおかげで、カルメネールはチリの大地に静かに生き続けていたのです。

品種の特性:チリならではの味わい
カルメネールの最大の魅力は、豊かな果実味と独特のスパイスとハーブのニュアンスにあります。熟したプラムやブラックチェリー、ダークチョコレートの風味に加え、スモークやタバコといった香りが折り重なります。タンニンはカベルネ・ソーヴィニヨンほど強くなく、比較的まろやかな口当たりが特徴です。
特にチリのカルメネールは、ピーマンやハラペーニョを思わせる香りがあることで知られています。これらは、「ピラジン」と呼ばれる芳香族有機化合物によるものです。ピラジンはカルメネールだけでなく、チリ産のカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランにも含まれています。長年に渡り欠点とみなされてきましたが、今ではテロワールを表す特徴として認められるようになっています。
カルメネールが適切な成熟度を達成するには、カベルネ・ソーヴィニヨンよりもさらに長い生育期間が必要です。そのため別の収穫時期を設ける必要があり、追加で手間がかかります。加えて、フィロキセラ対策の接ぎ木(他品種の根に繋げる方法)をすると収量が激減します。そのため、ボルドーでの栽培は復活しませんでした。一方、チリには温暖な気候と長い秋の日照に加え、フィロキセラが一度も到達しなかったという非常に稀な条件が揃っています。こうした理想的な環境のもと、カルメネールは現在に至るまで広く栽培されています。
チリの主要産地
カルメネールは、今でも世界各地で散見されますが、チリが世界における最重要産地です。事実上、チリのシグネチャー品種として世界的に認識されています。

| 産地 | 一般的な特徴 |
|---|---|
| マイポ・ヴァレー | やや軽やかでエレガントなカルメネールに仕上がることが多い。ハイビスカスやバラのような花のニュアンスと、繊細なミネラル感が特徴。 |
| カチャポアル・ヴァレー | 凝縮感が強く、ダークフルーツとチョコレートのニュアンスが際立つ。中でもペウモは最高峰のカルメネールの産地であることで知られている。 |
| コルチャグア・ヴァレー | 豊かな果実味にグリーンペッパーやスパイス。まろやかなタンニンと長い余韻。 |
| マウレ・ヴァレー | 古木由来のミネラル感と複雑味。素朴でありながら深みのあるスタイル。 |
「チリで発見された」カルメネール――20世紀最大のワインミステリー
カルメネールがチリで再発見された経緯は、ワイン史上屈指のドラマチックな出来事です。
1990年代初頭まで、チリのワイン生産者たちはある品種を「メルロー」として栽培していました。見た目も似ており、同じように扱われていたこの品種が、実はまったく別のブドウだとは、誰も疑っていなかったのです。
最初の転機は1991年に訪れます。フランスの品種研究家のクロード・ヴァラ氏がチリのメルロー畑を調査した際、その外観が本来のメルローと一致しないことに気づきました。精査の結果、メルローと思われていた樹の一部がカベルネ・フランであることが判明。これをきっかけに、チリのブドウ品種の正体を改めて調べるべきだという機運が高まりました。

その後、ヴァラ氏の教え子であるジャン=ミシェル・ブールシコ氏がチリを訪問。ヴィーニャ・カルメン(現地ワイナリー)にて、長年メルローとして栽培されてきた樹がカルメネールであることを同定しました。そのわずか2年後の1996年、ヴィーニャ・カルメンは、チリで初めてカルメネールのワインを「Grand Vidure(グラン・ヴィデュール)」の名でリリース。カルメネールはボルドーで「Grande Vidure」とも呼ばれていた歴史があり、この命名は品種の復権を象徴する出来事となりました。
この発見がワイン業界に広まるや、チリ産カルメネールへの注目は一気に高まります。1998年にはチリ農業省がカルメネールを独立した品種として公式に認定。現地ワイナリーはこぞってカルメネール単体や高品質ブレンドの開発に力を注ぐようになりました。「発見」からわずか数十年で、カルメネールはチリワインを象徴する品種へと成長したのです。
チリのカルメネールを代表する高級ワイン

Clos Apalta – Casa Lapostolle(コルチャグア・ヴァレー)
グラン・マルニエ創業者のひ孫であるアレクサンドラ・マルニエ・ラポストールと、夫のシリル・ド・ブルネが設立したワイナリー。コルチャグア・ヴァレーの中でも最高産地として名高いアパルタの急斜面に位置します。カルメネールを主体としたこちらのブレンドは、2005年ヴィンテージでWine Spectator誌年間ランキングで1位を獲得。

La Piu Belle – VIK
(カチャポアル・ヴァレー)
ノルウェー人実業家アレクサンダー・ヴィック氏が2006年に設立したVIKワイナリー。ボトルの個性的なデザインは、ワイナリーに併設されたホテルの客室装飾を手掛けたチリ人アーティストの落書きからインスパイアされたものです。カルメネール主体のブレンドで、フレンチオーク樽で20〜24か月熟成。一部は、現地の木を用いてトーストした自家製の「BARROIR」樽を使用。The Drink Business誌では、2020年ヴィンテージがチリ全カルメネール中最高の97点を獲得。

Carmin de Peumo – Concha y Toro(カチャポアル・ヴァレー)
チリ最大手のワイナリーで、日本でもCasillero del Diabloでお馴染みのConcha y Toroが手掛ける高級ワイン。カチャポアル・ヴァレーのペウモ地区にある古木のカルメネールを使用。ペウモはチリ国内でもカルメネールの品質が際立つ特別な産地として知られています。ロバート・パーカーらの著名評価誌から繰り返し高得点を獲得しています。

Pewën – Santa Rita(コルチャグア・ヴァレー)
1880年創業の老舗ワイナリー、Santa Ritaが誇るカルメネールの旗艦ワイン。アパルタの花崗岩質の急斜面に、なんと1938年に植樹された古木から生まれる希少な一本です。手摘みで収穫後、コンクリートとステンレスタンクで自然発酵させ、フレンチオーク樽(新樽40%)で18か月熟成。Wine Enthusiast誌から複数ヴィンテージで93点以上を獲得。
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Carménère – Encierra
(コルチャグア・ヴァレー)
コルチャグア・ヴァレーのブティックワイナリーEncierraが手掛ける100%カルメネール。花崗岩質土壌がワインにミネラル感となめらかでエレガントなタンニンをもたらし、品種の個性がクリアに表現されています。樹齢14年のブドウを手摘みで収穫し、重力を利用した小型コンクリートタンクで醸造。フレンチオーク樽で12か月熟成されたこだわりの一本です。
こんな方におすすめ: カルメネールの品種らしさをストレートに味わいたい方、テロワールを素直に映したクリーンなスタイルが好きな方

MW – Maturana Wines
(コルチャグア・ヴァレー)
少量生産にこだわるブティックワイナリー、Maturana Wines(マチュラナ・ワインズ)による単一畑のカルメネール。土地との深いつながりを大切にし、化学的な介入を極力抑えた生産方法で、テロワールを素直に表現することに徹しています。スパイシーながらコクがあり、口の中で広がるチョコレートの香りは、少量生産ならではの丁寧なワイン造りが凝縮された証です。
こんな方におすすめ: 小規模ワイナリーの個性ある一本を探している方、産地のテロワールを深く感じたい方

La Confundida – Chile diVino(カチャポアル・ヴァレー)
2014年に農学者・醸造家のマルセラ・チャンディア氏が立ち上げたブティックプロジェクト、Chile diVino(チレ・ディヴィーノ)が手掛ける100%カルメネール。その名「La Confundida(混同されたもの)」は、かつてメルローと取り違えられていたカルメネールの歴史へのオマージュです。カチャポアル・ヴァレーのアルマウエ(Almahue)の樹齢26年の古木から収穫。フレンチオーク樽で14か月熟成させることで、果実とスパイスが溶け合う、なめらかな質感の一本に仕上がっています。
こんな方におすすめ: 超小規模生産の100%カルメネールを味わってみたい方、個性的なブティックワインに興味がある方
まとめ
チリのカルメネールが世界で注目される理由は、歴史的な希少性とチリの自然条件が奇跡的に重なったことにあります。
- ボルドーで絶滅したはずの品種が、チリで150年以上静かに生き続けていた
- 1990年代の「再発見」により、チリだけのシグネチャー品種として世界に認められた
- 温暖な気候と長い秋の日照に加え、フィロキセラの不在がカルメネールの完全な成熟を可能にしている
- Clos ApaltaやCarmin de Peumoといった旗艦ワインが、世界で最高評価を獲得
デイリーワインとして気軽に楽しめるものから、世界を驚かせたトップレベルのものまで――チリのカルメネールの世界は、カベルネ・ソーヴィニヨンとはまた違った、チリだけが語れるストーリーに満ちています。次に赤ワインを選ぶ際には、ぜひチリ産のカルメネールを試してみてください。

